肩関節の疾患

はじめに

肩関節は人体の関節の中で最大の可動域 (動かすことのできる範囲)を持った関節です。そしてたくさんの筋肉がバランスよく動くことによってさまざまな動作を可能にしています。

肩の痛みというと、ただ何となく五十肩と診断されることが多いかもしれませんが、肩関節はその複雑な構造ゆえに、さまざまな疾患が存在します。

肩関節の疾患に関する診断、および治療の技術は目まぐるしく発展し、特に治療については関節鏡手術が一般的に行われるようになってきました。以前の創を大きく開けて行う手術に比べると、低侵襲で、術後の疼痛も少なく、リハビリも早い時期から可能になっています。

当院では、水城・内村の2名が肩関節の診療を専門に行っておりますが、昨年度行われた肩関節鏡視下手術は101例で、県内、九州内でもトップクラスの症例数となっております。

ここでは、肩関節の代表的な疾患と、当院で行っている治療について簡単に紹介します。

肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)

肩関節包という肩関節を包む袋の中で炎症が起こるものですが、50代でなくても発症する疾患です。典型的な症状としては肩前面から肘にかけて疼痛があり、結帯(腰の後ろに手を回す動き)、結髪(頭の後ろに手を回す動き)と呼ばれる動作がやりにくく夜間痛を伴います。

特に関節内の構造物が壊れておらず自然経過は良好といわれていますが、一方で長期にわたり症状が持続する場合もあり、特に夜間痛でお悩みの方が多いです。もちろん骨や軟骨などの構造物が壊れてないので、レントゲンやMRIでは特徴的な所見は少なく異常は認めません。

注射やお薬によって炎症をとることで治療期間の大幅な短縮ができます。ただし症状がひどい方や、治療をせずに長引いてしまった一部の方には「拘縮」という関節が固くなってしまい手が上げにくい状態が残存する場合があります。

その場合は当院では固くなった関節の袋を内視鏡的に切開する鏡視下関節授動術を行っています。入院は数日で手術時間は約30分と簡単な手術ですが、1カ月ほどでほぼ手の挙上が可能となります。

腱板断裂

腕を挙上・回旋する腱(腱板)が断裂してしまう病気です。外傷を伴って切れることもありますが、他の部位の腱と異なり自然に切れてしまうことも多いのが特徴です。

年齢が上がるとともに切れている可能性は高くなり、60代以上では症状ない人も含めると、4人に1人は切れていると言われています。症状は五十肩と似ていることもあり放置されている方も多いです。全く腕を挙上できない方から反対と同じ高さまで挙上できる方まで様々ですが、肩の高さから上での作業がやりづらかったり、動かすことで引っかかる感じがしたり、腕を捻った時に痛い、力が入りにくいといった症状を呈します。

レントゲンには腱は写らないため五十肩との鑑別は容易ではなく、整形外科専門医でも見分けがつきにくい場合もあります。断裂した腱はつながることはなく、徐々に拡大していきます。断裂がひどくなると、縫合することは困難となり、より大きな手術が必要になりますし、手術をしても十分な回復を得られないこともあります。早期に診断し、治療方針を考える必要のある疾患と言えます。

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診断するにはMRI等の検査が有効です(図1)。
当院では症状が改善しない場合や筋力低下が問題になる場合は内視鏡的に腱を修復する鏡視下腱板縫合術を行っています(図2、3)。また断裂が大きくなり修復が困難な場合、太もものところから筋膜を移植する鏡視下大腿筋膜移植術、大胸筋という筋肉を断裂部に移行する大胸筋移行術などを行います。

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またこれまで肩が挙がらない修復不能な腱板断裂に対しては、なかなか有効な手術治療はありませんでしたが、この4月から新しい人工関節(リバース型人工関節)が日本でも使用できるようになりました。海外では一般的に使用されており、手術によって肩が挙がるようになることが期待できます。まだ日本では症例数が少なく、この手術を行える医師・施設は限定されていますが、当院は実施可能な施設として認定されています。

肩石灰性腱炎(石灰沈着性腱板炎)

腕を挙上する腱板の中に石灰の塊(石のようなもの)ができてしまう病気です。レントゲンで診断がつきます(図4)。症状の出現の仕方は主に2通りあり、夜眠れないほどの激しい痛みを伴いほとんど手を使うことのできない急性期症状と、手を挙上する時の引っかかり感や脱力感を呈する慢性期症状とがあります。

急性期症状の方は石灰が吸収されることが多く症状の軽快とともにレントゲンで石灰が消失していきます。慢性期症状の方は残存することも多いです。強い疼痛を伴う場合には炎症を抑える注射を行うことにより、劇的に症状は改善します。症状が持続する場合には内視鏡的に摘出することもあります。

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外傷性肩関節前方不安定症(反復性肩関節脱臼)

肩の脱臼はコンタクトスポーツや転倒などの外傷で発生しますが、一度脱臼すると外れやすくなり、外れるのが怖いと不安を感じるようになります。そのような脱臼不安感のためスポーツは思い切ってできなくなってしまいますし、ひどくなると、寝返りを打ったり、ドアノブを回したりするだけで脱臼するという状態になります。

症状をとるためには基本的に手術をしないと治りません。内視鏡的に剥がれた軟骨と関節の袋を骨に縫いつける、鏡視下バンカート修復術を行います(図5)。従来の切開をして修復する方法に比べると格段に侵襲や疼痛が少なく、もっとも内視鏡の恩恵をうけている手術といえます。術後の再脱臼が問題となりますが、当院での鏡視下手術後の再脱臼率は5%と良好な成績を得ています。

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コンタクトスポーツなど再脱臼のリスクが高い場合には、直視下に肩甲骨の一部を移行・移植する補強手術を行います。患者さんの希望に合わせて、それらを鏡視下で行うこともあります。

その他

以上の疾患は肩関節内の疾患ですが、その他にも肩関節周辺の疾患として多いものは、いわゆる肩凝り(僧帽筋等の背部の筋肉の循環障害)や頸椎症、頸椎椎間板ヘルニアなど首の骨に由来する疼痛が起こることがあります。

おわりに

今回はよく見られる肩関節の疾患について紹介させていただきましたが、それぞれの疾患で経過や治療が異なります。よく肩が痛いといったところ友人に五十肩じゃない?といわれそのまま様子見ていたという方がいらっしゃいます。
適切な診断のもとに治療を行えば早めに疼痛を解決することもできます。少しでも疑問があるようであれば是非整形外科外来にお越しください。